1. 序論(introduction)
特許出願された発明のメカニズム及び理論的根拠などが、出願当時に明確に明らかにすることができず、発明に対する理論的根拠を特許明細書の詳細な説明に記載するのに限界がある場合がしばしばある。これらの点が請求項の発明に関連されると、明細書の記載に要求される実施可能性(韓国特許法第42条第3項)及び権利範囲の解釈時における詳細な説明により裏付けられる請求項の発明の範囲(韓国特許法第42条第4項第1号)について問題になることがある。
韓国の大法院は最近、登録特許について前述した点を根拠に請求された無効審判と関連して、韓国特許法第42条第3項及び第4項第1号を違反したと判断して、登録特許を無効にした特許法院の判決を破棄し、従来の立場を再確認しながら、これをさらに強固にする点で判示した(大法院2016.5.26。宣告2014フ2061判決)
これにより、大法院の判決について簡単に紹介し、これらの判決の意義について考察する。
2. 大法院の判決例
(1) 事案の概要(請求項及び詳細な説明の主要記載事項)
特許発明の請求項第1項は、「試料導入通路部と通気部が交差形成され、試料導入通路部と通気部が出会う地点に突出部が形成された構造を有する試料導入部を備えた電気化学的バイオセンサー」と記載されていた。
これに係る発明において、特許明細書の詳細な説明では、突出部の位置を「試料導入通路から通気部が出会う地点」としながら、「試料導入通路部の延長線上に形成される可能性はあるが、これらに限定されるものではなく、例えば、試料導入通路部及び通気部と同じ角度を成して形成されることもある」と記載しており、試料導入通路部と通気部の交差形状及びこれらの製造方法を明示していた。
また、詳細な説明では、その使用方法についても「試料導入通路部の末端部分を試料と接触させると、毛細管現象により試料が試料導入通路部に導入される。試料導入通路部を全て満たした試料は、突出部に供給され、再び通気部に供給される」と記載していた。
特許明細書の図面には、試料導入通路部、通気部及び試料導入通路部の延長線上に突出部が形成された形態が図示されているが、前述の記載内容に突出部の大きさと形状については、具体的な記載が明示的になかった。
これに加えて、詳細な説明の記載を見ると、「上記した突出部は、試料導入通路部と通気部が出会う地点に若干の余裕空間を提供することで、試料導入通路部が折れるコーナー部位(または交差点部位)で発生する可能性のあるエアポケット現象を最小限にする役割を果たしている。試料導入通路部が折れるコーナー部位(または交差部位)は、電極と接触する部分として、ここにエアポケットが発生すると、正確な測定が不可能な問題を抱えることになる」、「突出部を追加で設置することにより、試料導入通路部と通気部が交差する部位でのエアポケット現象を防止することができるようになる」と記載されていた。
(2) 大法院の判断
韓国の大法院は、たとえ突出部の大きさと形状については、詳細な説明に具体的に記載されていないが、試料導入通路部、通気部及び突出部の技術的構成が図面に図示されているので、当業者であれば、詳細な説明の記載と図面を参考にし、必要に応じて適切にその位置と大きさ及び形状を選択して、突出部を生産し、使用するのに支障はないように見えると判断した。
また、韓国の大法院は、「エアポケット現象」は液体配管の途中に不要な空気が滞留する現象を指す用語として配管が折れた部位で発生しやすいという点が出願の前に既に広く認知されていたことが伺える。したがって、当業者であれば、このようなエアポケット現象の意味及び発生位置などを理解し、詳細な説明の記載等により、請求項第1項の試料導入通路部と通気部が交差する部位での急激な流動変化を緩和させることができる余裕空間の「突出部」を通じて、エアポケット現象を最小化または緩和させる効果を発揮するということも十分に予測できると判断した。
まとめると、当業者が詳細な説明に記載された事項によって請求項第1項に記載された、物を生産、使用することができ、その効果の発生を十分に予測することができる以上、発明の説明でエアポケット現象の原因や突出部を通じて、上記の現象が緩和されることができるかに対する理論的根拠までは具体的に明らかにしなかったが、韓国の大法院は、法律で規定した詳細な説明の記載要件が満たされているものと判示した。
また、韓国の大法院は、本事情によると、出願当時の技術水準を基準にして、当業者の立場から請求項第1項の記載と対応される事項が詳細な説明に記載されており、詳細な説明に開示された内容を請求範囲に記載された範囲まで拡張することができると判断できるので、請求の範囲が詳細な説明によって裏付けられたものと判断できると判示した。
3. 意義
本判決では、明細書の記載要件と関連して、当業者が出願当時の技術水準に照らして物を生産、使用することができ、その効果の発生を十分に予測することができる以上、発明の説明で具体的な理論的根拠を記載していなかった場合でも、記載要件が満たされたとする従来の立場を堅持した。また、出願当時の技術水準を基準として、詳細な説明に開示された内容を特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで拡張することができれば、請求範囲は、詳細な説明によって裏付けされることができると明らかにした。したがって、明細書の記載要件及び権利範囲の解釈範囲について、しばしば厳密に運営する審査及び下級審の判断において、韓国の大法院が明確な基準を提示したのは、示唆するところがあると思われる。