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最近韓国のIP判例資料ー医薬品の投与容量限定発明の進歩性について

医薬品の投与容量限定発明の進歩性について

[特許法院2017.2.3.宣告2016ホ830判決の検討]

1. 序論

勃起不全治療剤である「シアリス」の物質特許(有効成分:「タダラフィル」)が2015.9.4.満了後、約60個の国内ジェネリック製薬会社がシアリスのジェネリック医薬品を出市した。一方、タダラフィルの容量を1日最大20mg、単位剤形内タダラフィル含量を1〜20mgに限定した大韓民国登録特許第0577057号(以下、「シアリス容量特許」)の満了日は、2020.4.26だったため、万が一シアリス容量特許が有効と認められる場合、大多数の韓国内ジェネリック製薬会社は巨額の損害賠償責任を負担しなければならないという問題があった。

これに、国内の製薬会社はシアリスの容量特許に対して無効審判を請求し、これを無効とする特許法院の判決が2017.2.3.宣告された。

特にこの事件の判決は、医薬品の用法∙容量の発明を特許の構成要素として認めた大法院全員合議体の判決(2014フ768判決、権利範囲確認事件)[1]が宣告された以後に、用法∙容量の発明の進歩性の判断基準が問題となった最初の事件であるため、世間の関心を集めた。

2. 法院の判断

(1) 事案の概要

被告(国内ジェネリック社)は、2014.10.23.特許審判院2014ダン2632号で原告を相手に、この事件シアリス容量特許の請求項1ないし13項は、その発明が属する技術分野において通常の知識を有する者(以下「通常の技術者」という。)が先行発明によって容易に発明することができるので、その進歩性が否定されると主張しながら、この事件の特許発明に対して登録無効審判を請求した。一方、 原告(特許権者)は、2015.11.5.特許審判院2015ジョン113号でこの事件の特許発明の請求項1項「1日の最大の総容量を20㎎以下」を「1日の総容量を2〜20㎎」に訂正し、請求項5、6および9項の「薬剤の単位剤形」の前に「1日1回投与用」を付加して限定する内容の当事件の訂正審判請求をした。

特許審判院は、2016.1.25.「この事件の第1項の訂正発明は、通常の技術者が先行発明から容易に発明することができるので、特許法第136条第4項に違反し、多数の事項について訂正を請求した場合、その一部に訂正不許可事由がある場合は、訂正審判請求全体が受け入れられない」という理由で、原告のこの事件の訂正審判請求を棄却する審決をした。

(2) 特許法院の判決

特許法院は、「医薬発明の分野で公知の医薬物質の薬理効果は、完全に維持して投薬の利便性を増進しながら、毒性や副作用が表れないように適正な投与容量を見つけたり、適正な投与周期∙投与部位∙投与経路などの投与用法を見つけりすることは、この分野で必ず解決しなければなら技術的課題であり、これを見つけていく過程とその方法も、この分野の通常の技術者によく知られている。そうであれば、公知の医薬物の薬効増大と副作用の減少という課題を解決するために毒性や副作用などの問題が発生しない範囲内で、期するの治療効果が表れるよう投与容量、投与周期などの投与方法を最適化することは、原則的に、通常の技術者の通常の創作能力の範囲内に属する(進歩性がない)のであり、ただし、特別な事情がない限り、特定の投与用法や投与用量により表れた有利な効果が通常の技術者の技術水準で予測される範囲を超える著しい場合あるいは、通常の技術者が、当該医薬発明の薬理効果が完全に維持され、毒性や副作用が最小限される特定の投与用法や投与用量を先行発明または公知の発明から予測することができなかった場合には、その進歩性は否定されない。」と判示して用法•容量の発明の進歩性に関する判断基準を明確に提示した。これらの基準に基づいてシアリス容量特許は、当然経なければなら臨床試験の過程を通じて導き出すのに特別の困難があると言えないという点から構成の困難性が認められず、さらにシアリス特許が請求している容量の範囲内で表れる効果が顕著または、当該容量の範囲内の特有の効果として見なすこともできないという点を根拠に進歩性が認められず、無効と判断された。

3. 判決の意義

この事件の判決について、原告は、2017.03.10.大法院に控訴したが、大法院は2017.06.29審理不続行棄却判決をして原審が確定した。

この事件シアリス容量特許のイギリスの対応特許について、イギリス特許法院では、投与容量の決定の容易性可否を異なって判断したことがある。[2]イギリス特許法院は、シアリスの場合、その投与容量を特定の範囲に限定するのが通常の公知医薬の経口投与量を決定する「日常的な研究」とは異なり、特許発明の容量決定に研究者の「価値判断」が必要な状況だったので、「合理的な成功の可能性がある」自明なケースであるとは言えないと判断し、シアリス容量特許の進歩性を認めた。一方、日本の対応特許の場合、日本特許審判院も進歩性を認めたが[3]、日本の東京知財高裁は進歩性を否定した。[4]

大法院2014フ768全員合議体の判決として投与容量の発明について特許で保護されることができるという可能性が認められたが、この事件の判決は、用法∙容量構成に対する特許性を認められるには未だに難しいという点を示す判決である。この事件の判決で、摘示した特別な事情(つまり、投与量に応じた効果が通常の技術者が予測できなかった薬効の向上や副作用の減少または服薬利便性の増進など顕著な効果に該当するという特別な事情)がない限り、国内で投与容量限定発明の進歩性は認められ難いであろう。

[1] 大法院は2015.5.21。宣告2014フ768権利範囲確認(特)事件で、「医薬という物の発明で対象疾病または薬効とともに投与用法と用量を付加する場合に、これらの投与用法と投与用量は、医療行為そのものではなく医薬というものが効果を完全に発揮するようにする属性を表現することにより、医薬というものに新しい意味を付与する構成要素になることができると見なさなければならず、このような投与用法と用量という新しい医薬用途が付加されて、新規性と進歩性などの特許要件を備えた医薬については、新たに特許権が付与されることができる」という内容の全員合議体判決を宣告した。

[2] Actavis & Ors v Eli Lilly And Company [2016] EWHC 1955 (Pat) (10 August 2016).

[3] 日本特許審判員無効2013-800243号事件

[4] 日本東京知財高裁第2015010113号事件

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