実施権者も無効審判を請求することのできる利害関係人にあたる
1. はじめに
旧特許法第133条第1項は、「利害関係人または審査官が特許の無効審判を請求することができる。」と規定している。この規定において、特許権者から特許権を実施する権利を許諾された実施権者が無効審判を請求することができる利害関係人に該当するのか否かが重要な争点である。 これに関し、従来の大法院判例は、実施権を許諾されただけでは利害関係が消滅したと見ることはできないという判例(大法院 1984. 5. 29.宣告82フ30判決など)と、実施権を許諾された者はその期間内には権利の対抗を受けるおそれがなく、業務上の損害を被ったり、被るおそれもないので利害関係人に該当しないという判例(大法院 1983. 12. 27.宣告82フ58判決など)とに分かれていた。 近頃、大法院は、画像圧縮技術に関する標準パテントプールに登録された特許に対し、実施権者が特許権者を相手取って起こした無効審判の審決取消訴訟事件において、特段の事情がない限り、特許権の実施権者は仮に、特許権者から権利の対抗を受けたり、受けるおそれがないとしても、無効審判を請求することができる利害関係があると見るべきであると判断することで、従来の相反した趣旨の大法院判決を変更する全員合議体判決を宣告した。よって、これを紹介しつつその意義を考察する。
2. 大法院の判決
大法院は、「旧特許法(2013. 3. 22.法律第11654号で改正される前の特許法)第133条第1項前文は、「利害関係人または審査官は特許が次の各号のいずれかに該当する場合には無効審判を請求することができる。」と規定している。ここでいう利害関係人とは、当該特許発明の権利存続によって法律上何らかの不利益を受けたり、受けるおそれがあって、その消滅について直截的かつ現実的な利害関係を有する者をいう。これには当該特許発明と同じ種類の物品を製造•販売したり、製造•販売する者も含まれる。かかる法理によれば、特段の事情がない限り、特許権の実施権者が特許権者から権利の対抗を受けたり、受けるおそれがないという理由だけで無効審判を請求することのできる利害関係が消滅したと見ることはできない。」と判断した。 その理由として、「特許権の実施権者には実施料の支払いや実施範囲など諸制限事項が付加されることが一般的なので、実施権者は無効審判でもって特許に対する無効審決を受けることにより、こうした制約から逃れることができる。そして、特許に無効事由があったとしても、それに対する無効審決が確定するまでは特許権は有効に存続し、みだりにその存在を否定することはできず、無効審判を請求しても無効審決が確定するまでには相当な時間と費用がかかる。こうした理由から特許権に対する実施権の設定を受けずに実施したい者でも、先に特許権者から実施権の設定を受けて特許発明を実施することができ、無効か否かの係争については先送りすることもできるので、実施権を設定を受けたという理由で特許の無効か否かを争わないという意思を示したと断定することはできない。」と判示した(大法院 2019.2.21.宣告2017フ2819全員合議体判決)。
3. 対象判決の意義
対象判決は、特許権者から特許権を実施することができる権利を許諾された実施権者が無効審判を請求することのできる利害関係人に該当するか否かに関し、実施権者であるとの理由だけで利害関係が消滅したと見ることはできないという大法院の立場を明確にすることで、これまでの論争を収束させたことに意義がある。 本対象判決により、特許権者にロイヤリティを支払っている実施権者が当該特許の無効審判を請求する事例が増加すると予想される。これに伴い、特許権者は、ライセンス契約書に「不争条項」を積極的に採り入れようとするものと考えられる。但し、このようなライセンス契約上の「不争条項」の有効性については議論の余地があり、今後これに関する大法院の判断に期待したい。