特許の故意侵害による懲罰的損害賠償請求規定導入についての考察 これまで韓国特許法では、特許侵害の不法行為による損害賠償の要件として「故意又は過失」が並列的に規定されていたため、特許権侵害訴訟で故意か過失か否かについては争点になることはなかった。つまり、これまで韓国特許法は米国のような懲罰的損害賠償の規定を設けていなかったのである。 しかし、2019年7月9日から施行された改正特許法では、特許権の侵害行為が故意であると認められる場合には、損害として認められた金額の3倍まで裁判所が損害賠償額を定めることができる懲罰的損害賠償制度が導入された(改正特許法第128条第8項)。これにより、特許権侵害行為について権利者により実効的な救済を提供し、特許権侵害行為を抑制する効果をもたらすことが考えられる。これに伴い、権利者の積極的な権利行使により、侵害訴訟が増加するものと期待される。
また、実用新案権の侵害行為に対しても懲罰的損害賠償の規定が適用されるが、本規定は最初の違反行為が法施行日である2019年7月9日以降に発生した場合から適用されることに留意する必要がある。 一方、実務上侵害訴訟における主な争いの対象は、侵害行為の存否に集中しており、損害賠償額について深みのある話し合いが行われていなかった。しかし、懲罰的損害賠償制度の導入により、損害賠償額もまた今後集中的な争点となることと予想される。 改正法は、懲罰的損害賠償による損害賠償額の決定基準として、
① 侵害行為をした者が優越的地位にあったか否か、 ② 故意又は損害の発生の懸念を認識した程度、 ③ 侵害行為により特許権者が被った被害の規模、 ④ 侵害行為により侵害した者が得た経済的利益、 ⑤ 侵害行為の期間•回数など、 ⑥ 侵害行為による罰金、 ⑦ 侵害行為をした者の財産状態、 ⑧ 侵害行為をした者の被害救済の努力の程度、
を考慮しなければならないと規定している(改正特許法第128条第9項)。実際、これらの基準の具体的な適用例は今後、韓国の裁判所の実務運用を通じて確立されると考えられる。 さらに、最大3倍賠償の基準となる元の損害賠償額の具体的な算定方式も、以前に比べて活発に争われると予想される。 例えば、固定費と変動費の区別、限界利益額の算定、寄与率の算定法理と具体的な寄与率の計算などの侵害行為に対する具体的な損害額の算定方法についても、今後、多くの判例が確立されると思われる。 特に、特許権の侵害行為が「故意」によるものか否かについては、今後主な争点として争われるであろう。したがって、特許権などの事業に活用する企業は故意がなかった点を立証する資料(例えば、類似の先行技術がある場合、外部の客観的な機関を通じた非侵害意見書など)を事前に準備し、先行技術調査などを通じて侵害の危険があると判断される場合には、権利者と協議してライセンスを受けるなどの先制的措置をとることにより、知的財産権侵害のリスクを減らすことが必要になると考えられる。